私は忙しい科学者です。貴社の広告を読みはじめたところ、すべてを読み通し、貴重な時間を五分もムダにしてしまいました。
ジョセフ・シュガーマン著「10倍売る人の文章術」
これはジョセフ・シュガーマン著「10倍売る人の文章術」にある、「サーモスタット」の広告を読んだ女性から寄せられた「苦情」の手紙です。
彼女はサーモスタット(温度を調節する装置)を必要としていないだけでなく、関心すらありませんでした。にもかかわらず、広告をすべて読み通してしまった。
そのことに憤慨しているのです。
無関心な読者をも引きこむ「滑り台効果」とは一体、どんなテクニックなのでしょうか?
滑り落ちるかのように・・・
公園に滑り台があります。
すべるにはまず、階段をのぼる必要があります。
この階段をのぼるきっかけは、文章でいえば「キャッチコピー(タイトル)」といったところでしょうか。
タイトルに惹かれたあなたは、ステップを上がります。
そして腰をおろして広告を読みはじめます。読者は気まぐれです。少しでも違和感を感じたり、興味を失うと途中で読むのをやめてしまいます。
しかし「第1センテンス」を読んだあなたは、隠された「仕掛け」によって読み進んでしまいます。そしてついには、広告の最後の文章に到達します。
まるで滑り台を滑り落ちるかのように自然に、「重力」の法則にしたがって。
キャッチコピー(タイトル)
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リード(導入文)
⇩
コピー(本文)
⇩
最後の1センテンスへ
もちろん、ただ記事を書いただけでは、読者は読み進んでくれません。
そこには「仕掛け」が必要なのです。
(関連記事「第1センテンス」を読ませるテクニック。シュガーマン先生に学ぶ【在宅副業の文章術】)
商品を酷評?
シュガーマン先生はある広告記事を書きました。冒頭で紹介した、読者から「抗議」を受けたサーモスタット「マジック・スタット」の広告です。
タイトルから見ていきましょう。
【タイトル】『マジック・ナンセンス』
正確な和訳は分かりません。しかし「ナンセンス」は「意味のない・馬鹿げた」といった意味の言葉です。
冒頭から挑発的です。
【リード】『私たちが「マジック・スタット」と呼ばれるサーモスタットを評価しなかった理由にご賛同いただけるずです。驚くべきことが起こるまでは―――。』
売ろうとしている商品を評価しない?なぜなのか。そしてその「驚くべきこと」とは?
読者は気になって読み進めます。
【写真キャプション】『デジタル式の計器表示もなければ、不格好なケースに、ばかばかしい名前。ほとんど嫌気がさしました。』
ばかばかしい、嫌気がさすといった強烈な言葉を用いて、商品を酷評します。ふつうの広告では考えられません。
その毒舌は本文でもさらに続きます。すこし長くなりますが、引用します。
【コピー】『よくあるセールストークを予想されているなら、お門違いです。
私たちはマジック・スタットがいかに優れたサーモスタットであるかを説明するのではなく、これを徹底的にこき下ろそうというのですから。
初めてマジック・スタットに出合ったとき、その名前をひと目みて「がっくり」。プラスチックケースを見て「なんて安っぽい」。
そして、デジタル表示を探しても見当たらず・・・・。販売員が使用方法を説明する前から、私たちはうんざりしていました。』
この商品の「デメリット」をこれでもか、というくらい述べています。これは広告の信頼性を得るために「正直さ」を前面に出す手法とも通じます。商品のネガティブな側面を隠さずに打ち明けるテクニックです。
しかし、ここまで前面に押し出すには勇気が必要です。それでもシュガーマン先生はあえて、これから売ろうとする商品を「ディスる」という「仕掛け」を施しました。
そしてその結果、冒頭のような苦情の手紙を受け取るほどに、読者を「滑り台」に誘うことに成功したのです。
もちろん、このままでは終わりません。
そしてセールストークへ
これ以降のコピーでは、少しずつマジック・スタットの「長所」に触れていきます。
そしてついには強調すべき「優れた機能」を見つけ出し、読者に商品をアピールします。
広告文の最後は次のように締めくくられます。
『見た目はモノの真価とは無関係です。名前もさほどの意味はありません。
しかし、もっと印象のよい名前にしてほしかったものです。
たとえば「トゥインクル・テンプ」のように―――。』
短所にまず触れ、最後にメリットを強調する。
これもセールス・ライティングではよく使われる、というより必須のテクニックです。
広告主は大成功し事業売却へ
この広告文が大きな反響を呼んだことにより、シュガーマン先生の会社はおおいに利益を上げました。もちろんマジック・スタットのメーカーも。
そして彼は、メーカーから感謝の言葉とともに次のような知らせを受けます。
『このたび、二千万ドル(当時のレートで約22億円)で当社をハネウェル社に売却しました。これからはハネウェルの全米セールスマネージャーと取引いただくことになります。』
ハネウェル社といえば、現在は日本法人もある巨大なグローバル企業です。
たったひとつの広告文が、時にはとても大きな影響力をもたらす・・・そう強く感じさせるエピソードです。
そして仕掛けを施した「滑り台効果」の大切さを教えてくれたシュガーマン先生に感謝ですね。
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